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諸葛夫婦(孔明&月英)中心小説保管庫です。更新はありません。旧「有頂天外」です。
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怪我は大丈夫なのですか?

久しぶりに屋敷に帰ってきた早々に言われた言葉に月英は驚き、呆然と夫を見た。
そんな月英を孔明は無言のまま見つめる。

「な、なぜ怪我のことを知っているのですか?」
「なぜ妻の怪我のことを、他人から聞かされなければならないのですか?」

問いを問いで返してきた不機嫌そうな孔明に月英は俯いた。
怪我といってもたいしたものではないから余計な心配をかけたくなかった、それにもう傷口も塞がってきているし、孔明も忙しそうだったから、いろいろな言い訳を考えてみても、どれも孔明が納得するものではないと月英は思った。
なにより、隠していたことが孔明には許せないのだろう。


どう言い訳しようか思案しているらしい妻を孔明は見据える。
偶然会った軍医から、「そろそろ軟膏が切れる頃ですから渡してください」と言われた時、孔明は何のことだか分からなかった。孔明の様子に軍医は、まずいことを言ったのかもしれない、という顔をした後、怪我自体はたいしたものではない、と告げた。
それから――。

気まずそうにちらりと自分を見る月英に孔明は溜息を洩らす。

「あの、孔明さま。本当にたいした怪我ではないんですよ。ただ、この肩のあたりを切っただけで」
「木に登って遊んでいた子供が落ちたのを助けた時、よろけて背後の木の枝で肩を切ったと聞いてますが」

そこまで知っているとなると軍医が話したのだな、と月英は思った。

「その通りです」

月英がそう言うと、孔明はそっと月英に近づき、肩にかかっていた髪を払うと、

「みせてみなさい」

と感情が何も滲んでいない声音でそう言う。驚き一歩下がろうとした月英の髪を一房握る。

「今、ですか?」

孔明が頷く。

「あの・・・、後では駄目でしょうか?」
「あの若い軍医には診せて、私にはみせられないのですか?」
「それは屁理屈ですわ。彼には治療してもらう為に診せただけですもの」
「夫が妻の体を見るのに理由がいるのですか?」

髪を掴んでいた手を離したので、一歩下がろうとした瞬間、肩をつかまれそのまま、孔明に背を向ける体勢にされたかと思うと背中に孔明の体温を感じた。後ろから抱きしめてきた孔明が、前に手をまわし、月英の服を脱がしにかかる。

「孔明さま」
「貴方がおとなしく傷をみせれば、手荒な真似はしませんよ」
「――・・・。見るだけですよね?」
「それ以外何の意図があると思っているのですか?」

孔明の吐息が耳に当たり、月英は背筋がぞくりとした。けれど、そんな自分が恥ずかしくなった。月英は胸元に置かれた孔明の手に自分のそれを重ねると、

「自分で脱ぎますから・・・」

手を離してください、と小さな消えいりそうな声で言う。
背中に感じていた孔明の体温が離れたのを感じて、安堵するようなちょっと寂しいような複雑な気持ちを抱えながら、月英はそっと肩の傷口だけ見える服を脱ぐ。

「傷は本当にたいしたことないのですよ」

月英の言葉に孔明は何も答えない。
もうよろしいでしょう、と月英が肩をしまおうをすると、傷口に孔明の指が触れてきた。
ゆっくりとなぞるように小さな傷口に触れて、

「肩というより背中ですね」

そんなことを言う。
そうですね、肩より少し下かもしれませんね、と平然を装って月英は答える。

「そうなると、かなり肩を露出しないと、治療はできなかったですよね?」
「孔明さま?」

確かに治療の際は、服を脱いでこれで前を隠してください、と白い布を渡されて、背中全体をさらすことになったけれど、それはあくまで治療なのだから仕方のないこと、と月英は気にもしなかった。
けれど―・・・、もしかして。

「あの・・・孔明さま。私の勘違いでしたら恥ずかしいのですが・・・」
「何ですか?」
「怪我を隠していたことを怒っているのではなく、軍医に体をみせたことを怒っているのですか?」

孔明は何も言わない。
否定も肯定もしない。こういう場合、肯定だと月英は分かっている。
もしかして、嫉妬・・・しているのだろうか?そう思うと思わず月英の口元が緩んだ。

「軍医はそれが仕事ですよ」
「月英殿は色が白いから傷が目立つかもしれませんね、と言われました」

えっ、と振り返ろうとした瞬間、両腕を孔明に掴まれた。驚く間もなく、あっ・・・と月英は声を上げる。孔明の唇が傷に触れたのだ。

「見るだけって言ったじゃないですか?!」

逃れようとする月英の腕を掴む孔明の手に力がこもる。

「唾液には殺菌作用があるというではないですか?動物は舐めて治すでしょう?」
「またそんな屁理屈を・・・」

語尾が震えてしまう。傷口に孔明の舌の感触を感じ、吐息を洩らす。
孔明に触れられると条件反射のように、体中の力が抜け、彼の熱によってとろりと溶けていってしまいそうになるから困ると思いつつ、それが嫌ではないのだからますます困る。
月英が下唇を噛み、声が洩れそうになるのを堪えていると、両腕を掴んでいた孔明の手が前方に回り、腰に触れてきたかと思うと、裾から手をしのばせると直に胸に触れていく。
びくん、と体を揺らすと、孔明が笑ったのが分かった。吐息が耳にあたる。

「孔明さま・・・」
「軍医が言ってました」
「えっ・・・?」
「女性には特有の病気があり、意外にも女性本人が見逃しやすいから、こうして夫がしこりがないか確認しなければならないそうですよ」
「そ、んな・・・こと軍医が孔明さまに言うわけないじゃないですか」

月英の反論も吐息交じりで頼りないものになってしまう。

「私は夫の役目として、触診しているだけですよ」
「――・・・」
「それとも、触診だけでは嫌なのですか?」

今までさわさわともどかしく触れるだけだった孔明が胸の先端に触れる。
あっ・・・と声が洩れた後、月英の体がびくっと軽くしなる。

月英、と名を呼びながら耳たぶを舐めるように唇を寄せてくる孔明に、月英は悔しいという気持ちと、これを待っていたと思ってしまう気持ちを持て余しつつ、

「い、・・嫌です」

もっと・・・、と孔明を求める。それに満足そうに孔明が笑いつつ、

「傷は塞がっているようですが、こんなことをして大丈夫なのですか?」

そんな意地悪を言う。
なんと答えればいいか分からず月英が困惑していると、孔明の手が一度月英から一気に離れると、くるりと月英の向きにさせ、向かいあった。目が合うと恥ずかしさに俯いた月英の顎を掴み、唇を重ねる。最初は軽く、じょじょに舌を絡めてながら、月英を抱き寄せる。

「怪我を悪化させない為に、――でやりましょうか?」
「えっ・・・?!」

孔明の囁いた言葉に月英は、驚きの声をあげる。
それは今まで求められたことはあるけれど、あまりの恥ずかしさにずっと断っていたものだ。

「あれなら貴方が自分で動けますから、傷への衝撃も少ないでしょう?」

にこりとそう言う孔明を睨むが、熱をもてあました体は孔明から離れることができない。
どうしますか、と問いかける孔明の首に手を回す。

この熱から逃れる方法は、孔明に身を委ねるしかない。




 

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