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諸葛夫婦(孔明&月英)中心小説保管庫です。更新はありません。旧「有頂天外」です。
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パキッ、と小枝が折れる音がした。
月英が瞬間ハッと顔を上げると、雑木林の中に孔明が立っていた。
月英はしゃがみこんだまま、孔明を見つめた。

「今年は雪が深くなりそうですね」

孔明が空を見上げて言うので、月英がそうですね、と返す。
落葉を踏みしめながら孔明が月英の前まで近づいた。月英も立ち上がると空を見た。
灰色の今にも泣き出しそうな色をした空。
同じ空を見ているはずなのに、孔明と自分の目に映る空を違うような気がした。
ちらりとまだ空を見上げている孔明を盗み見てから、月英は拾っていた薪を抱え直す。

「薪を拾っていたのですか?」
「聞かずとも見ればお分かりでしょう?」

孔明が月英の腕から薪を取ろうと手を伸ばした。持ってくれるらしい。
けれど、月英はぷいっと気付かず振りをしてしっかりと抱え直す。
すると、ふっと孔明が笑ったのが分かった。ちらりと孔明を見ると苦笑していた。
そんな様子を見ながら、違和感を感じて仕方ないと月英は思った。
何が言おうとして躊躇っているのではないだろうか。

――もしかして。

そう思うと月英の手が震え、薪を落とした。
あっ、と小さく声を上げて月英はしゃがみこんで薪を拾い直す。
月英、と名を呼ばれたので、手が滑りました、と答えると、同じようにしゃがみこんだ孔明と目が合った。

「手が震えてますよ」
「寒くなってきましたから、ほら、吐く息ももう白い。早く戻りましょう」

月英が頬に作り笑いを浮かべるが、孔明はそれに首を振った。
急ぐことはありませんよ、小さな声でそう言うと孔明も薪を拾う。

震える手で薪を拾っていると、指に棘が刺さった。
あっ、と月英が小さく声を上げると孔明が月英の手を掴んだ。
孔明の手は、田畑を耕しているのにもかかわらず作り物のように綺麗な手をしている。
けれど、血が通い、じんわりと温かく月英の体に、つんと何かが突き抜けていく。
大丈夫です、と月英が答えようとした、その時。

馬の啼く音がしたかと思うと、金属音の触れ合う音がして、遠くに人の話し声が聞こえた。
音がする方向にあるのは、草廬だけだ。
思わず半立ちになりそうになった月英の手を孔明が強く握り、立ち上がるのを許さない。

「誰か・・・いらっしゃったのでは?」
「――帰るところですよ」
「えっ?」

月英は、眉を顰めて孔明を見つめる。
珍しく孔明は、罰が悪そうに月英から目を反らす。

「私は――旅に出ていると言うように言ってあります」
「――いらっしゃったのは・・・劉備玄徳公なのですか?」

孔明は答えない。
月英は、力ずくで自分の手をしっかりと掴む孔明から手を離すと、すぐさま立ち上がると孔明に背を向ける。
背後で孔明も立ち上がったのを感じた。月英は、すっと背筋を伸ばすと、

「お仕えするつもりがないのなら、こそこそせずにご自分の口ではっきりとおっしゃればいいのでは?」

情けないです、月英はそう言うと三歩ほど歩いた後、一度立ち止まり孔明に振り返るが、孔明は月英を見ていなかった。落とした薪を縛り上げているところだった。
月英は、その姿に顔を反らすと、そのまま走って草廬に向かった。

――情けない。

そう思いながらも、どこか安堵している自分にも同じ言葉を投げつける。

情けない。情けない夫婦だ。


木々が煽る風に、大きな音をたてて、横に揺れる。
音は時に激しくなり、時に大人しくなり、強くなり、弱くなり、月英の耳に響く。

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