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諸葛夫婦(孔明&月英)中心小説保管庫です。更新はありません。旧「有頂天外」です。
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再び会ったのは一月たった頃。
承彦邸の庭園でだった。

月英は、相変わらず初めて会った時と同じで不機嫌そうな顔をしている。もう一度だけ会ってもいい、と言ったと孔明は聞いているが、相変わらずな彼女に苦笑するしかない。
顔を背けたままの月英は、時折ちらりと孔明を見たかと思うと目が合うとまたぷいっと反らしてしまう。そんな月英に孔明は、

「この絡繰りの仕掛けは、この留め金によってここを固定しつつ、この棒をこう動くようにしているのですか?梃子の原理の応用ですね」

と問いかける。
すると、月英は今度は孔明から目を反らさずにじっと見てきたが唇が歪んだ。
どうやら正解らしい。けれど、それを認めるのも悔しいというところか、と孔明は思った。

「しかし、本当によく出来てますね」

孔明は月英が作ったという絡繰り人形をまじまじと見つめる。
このようなものを作れる発想力に驚く。
そして、それを作りだした月英の手に視線を送ると、良家の子女とは思えない手をしていた。傷はあるし、爪すら割れている。それだけ作るのは大変なのだろう。
しかし、今の孔明には絡繰りの仕掛け以上に気になることがひとつ。

「ところで――」

孔明がにこりとして月英に言う。

「先ほどから一度も貴方の声を聞いていないのですが」
「――・・・」
「もう一度会ってもいいと言ってくださったと聞いてますが、会ってもいいけど口はきいてくださらないということですか?」

月英は、小さく首を振る。

「では、なぜですか?」
「――・・・」

ゆっくりとした手つきで月英は、絡繰り人形を指差して、それを・・・と掠れた声を出した。

「それを作るのに最近夜更かしをしていたので、風邪をひいたらしく今朝から声が出ない・・・だけです」
「声が?」

月英は頷くと、孔明を軽く睨む。

「貴方を驚かしたかったのに・・・、簡単に仕掛けを暴かれてしまいました」

掠れた声は痛々しいが、それゆえに余計悔しそうにも聞こえる。
それから、ごぼごぼっと咳をする。どうやら喋ろうとすると咳が出てしまうらしい。

「私を驚かせるために夜な夜な夜更かしをしてこれを作ったのですか?」

咳がとまった月英が頷く。孔明は改めて絡繰り人形を見る。

「簡単に仕掛けが分かったわけではありませんよ。とても難しかった」
「でも、すぐでした」

そう言うと月英は悔しそうに下唇をかみ締めている。
月英にしたら、この一月図面を何度も何度の直して作り上げた絡繰りの仕掛けをいとも簡単に暴かれたようで、腹の奥からふつふつとしたものが沸いてきて仕方ない。
けれど、その反面、孔明に対して何か形容しがたい不可思議な感覚も覚える。

「貴方は、心底負けず嫌いのようですね」
「――・・・それがいけませんか?」
「いいえ。悪いとは言っていないでしょう?逆にそこが貴方の魅力なのかもしれないとは思ってますが」

ぷいっとまた月英が顔を反らす。
ほんの少し月英の頬が赤くなったのは気のせいではないと孔明は思った。

「熱もあるのですか?顔が赤いようですが」

そっと額に手を伸ばそうとした孔明の手を、月英は跳ね除ける。
そんなことは予想していたのだろう孔明は笑っている。ますます月英は悔しそうにする。

「な、何をするのですか?!」
「申し訳ありません。貴方があまりの負けず嫌いの子供のようで、弟妹と同じように思えてしまいました」
「わ、私は貴方より年上です!」
「知ってますよ。でも、今の貴方は年上には見えない」

睨んでくる月英が可愛らしく孔明は頬に笑みが浮かぶ。
それがますます月英を怒らせると分かっているけれど、止められない。

「私が縁談を進めて欲しいと言っているのは聞いてますね?」
「――」

月英は頷きもせず、ただ一度ゆっくりと瞬きをした。
否定をしないのだから知っているのだろう。

「月英殿、今の貴方は風邪をひいている。だから、普段より判断力が鈍っている、ということにして」
「――?」
「私にしておきませんか?私の妻になってください」

月英が目を見開くと孔明を見つめてきた。月英は驚きのあまり息が止まった。
何を言っているのですか、と言おうと唇を開き息を吸ったのがいけなかったのか、咳が喉の奥からこみ上げてきた。ごぼごぼっと口から零れるなかなか止まらない咳に唇を手で覆いながら俯く。
ただ俯いただけなのに、

「それは諾として頷いていただけたと思ってよろしいですね?」

と、とんでもないことを孔明が言う。
咳が止まらない月英は、首を振るが孔明はそれを見ていない。
ようやく咳が止まった頃には月英は肩で息をしていた。

「私は承諾など・・・」

喉が痛い。声が掠れて出ていない。そんな月英を孔明は、面白げに笑いながら、

「だから、今の貴方は判断力が鈍っていて、私の策にはまってしまったとでも思ってください」
「それは騙したということではありませんか!」

大きな声で反論したいのに声が出ない悔しさに月英は拳を握り締めて抗議する。

「同じことですよ。私を負かしたいなら、結婚すればいいではありませんか?そうすれば時間はたっぷりありますよ。私はそれがとても楽しみで仕方がない」
「――・・・」
「私にしておきませんか?」

私なら貴方が学びたがっていた兵法もお教えできますよ、と孔明は微笑む。
見つめてくる瞳に、月英は一瞬抗えない強さを感じ、唇を閉ざす。
このままだと本当に承諾したことになってしまうと分かっているのに、声が出ない。
本当に――・・・。
私は風邪で判断力が鈍っているのだろうか、そんな風に思い月英は胸が騒ぐ。
そんな月英を孔明は満足気に見て、笑った。


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