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諸葛夫婦(孔明&月英)中心小説保管庫です。更新はありません。旧「有頂天外」です。
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目が覚めたら、突然人の肌が見えた。
夢かと思って何度も瞬きをしても頬をつねってみても、それは消えることがない。
現実だと把握した途端に自分の置かれた現状を思い出し、月英は全身が赤くなるのが分かった。
赤くなった頬を両手で覆いながら、隣で眠る自分の夫となった男――孔明を見る。

月英を包むようにして孔明はまだ眠っている。右手は月英を腕枕し、左手は腰に置かれている。
月英はのろのろと上半身を起こし、孔明の左手をどかそうと乱暴に振り払うと、眠っていることを確認して孔明の頬を一度つねってから、寝台を降りる。
床に散らばったままの寝着を拾い羽織り、体を拭こうと寝室を後にしようとして、足元がふらつくと思った時、

「まだ朝早いですよ。昨夜は遅かったのですからもう少しゆっくりしたらどうです?」

背後から声をかかった。
月英は、おそるおそる振り返ると寝そべったまま孔明が月英を見ていた。

「――・・・いつ起きたのですか?」
「頬をつねられた時ですよ。それから貴方が寝台を裸のまま降りて、着替えるまでずっと見てました」
「――っ!!!!」

怒りに声が出ない月英を、ククっと笑いながら孔明は、

「頬をつねられた時、てっきり起こされたのだと思ったのですが」
「違います!」
「貴方が寂しいから起こされたのだと思って嬉しかったのですが違いましたか?」

それは残念、そう言って孔明は起き上がろうとするので、月英は急いで目を反らして、床に落ちていた孔明の寝着を投げつける。孔明も裸のままだった。

「私の奥さんは乱暴者ですね」

そう言う孔明の声が心なしか楽しそうだ。
孔明といると月英は、何もかもこの男の策略に嵌まってしまったかのように思えて仕方がない。
ちらりと孔明を見るとまだ裸のままだった。

「着替えてください!」
「いえ、少しだるくて・・・」

えっ、と月英は、戸惑いながらも孔明に駆け寄る。

「体調が悪いのですか?」

出来るだけ孔明を直視しないように月英が尋ねると、孔明はすっと月英の前に右手を差し出す。

「?」
「ずっと貴方を腕枕してたせいか腕がだるいのですよ」
「――っ!!」

月英は差し出された右手が自分を抱き寄せようとしたのを感じて急いで逃げる。

「貴方は私はそんなに怒らせたいのですか?!」
「そうといえばそうかもしれませんね。怒っている貴方は、可愛いですから」
「――っ!!!」

乱暴な足取りで月英が部屋を出て行こうとすると、

「均もいないのですから、もう少しゆっくりしましょう。まだ朝早いですよ」

月英は答えない。足も止めないまま部屋を後にする。
孔明の弟の均は、近頃新婚の兄夫婦に気を使っているのか友人宅に泊まりに行ったり外泊することが多い。
月英にしたらいてくれた方がありがたいのだが・・・。
体を清め、身支度を整えた後、庭に出ると太陽の位置でまだ本当に朝早いことが分かった。
月英は伸びをしてみるが、体の節々に違和感を感じて、はぁ・・・と溜息を落とす。
とりあえず、朝食の支度をと思った時、孔明の姿が目に入った。
目が合うとにこりとしてくるので、ぷいっと月英が目を反らすと、孔明が笑った。
笑われた月英は、どうしてこうこの人は人を怒らせることばかりするのだろうと、ふつふつを湧き出る怒りを必死になだめようとする。
いくら自分が怒っても孔明は笑ってばかりいる。それも嬉しそうに。
まるで孔明の手の上で転がされているかのようだ。

「孔明様は・・・」
「何ですか?」
「どこまで計算なさっているのですか?」
「計算?」
「私を怒らせる計算です」

そう言うと孔明は、それに関しては計算などしていませんが、と言う。
月英はそんな孔明を睨むが、孔明は月英をじっと見つめて、

「貴方を手に入れる時にはそれなりに・・・。計算というか騙したというか・・・、貴方の声が出なかったのがとても都合が良いとは思いましたが、貴方の思っているような計算などしておりませんよ」
「嘘です!」
「本当ですよ。そうですね、あぁ、貴方は絡繰りを作りますよね?その時は図面を引き、いろいろと考え、計算ししますよね?それと同じですよ」
「えっ?」

意味が分からず月英は小首を傾げる。

「貴方が計算するのは作りたいものを作るためですよね?私が計算するとしたら、それは欲しいモノを手に入れる為、見たいものがあるからですよ」

近づいてくる孔明に月英は思わず身構えるが、それすら孔明は楽しそうにしている。

「私が貴方を怒らせるのも、怒った貴方の顔が可愛くて見たくなるからですよ」
「――・・・」
「すべては自分でまいた種ですよ、月英」

そう言われて月英は、怒りを抑えて、どうにかその頬に笑みを浮かべてみせる。頬がぴくぴくするのは仕方がない。

「では、怒らないようにしますわ」

精一杯の笑顔を作って見せると孔明は、

「怒りを我慢して笑おうとしている顔も可愛いものですね」
「――っ!!!」
「そんなの怒ってばかりいると脳の血管が切れますよ」
「だ、誰がそうさせているんですか?!!」
「私ですね」

まるで他人事のように孔明が言う。
結局、怒っても笑っても孔明を喜ばすだけのようだ。じゃあ一体どんな顔をすればいいというのか、月英は孔明を睨みつける。

「前にも言いましたが、私を負かしたいなら時間はたっぷりありますから、楽しみにしてますよ。それに――」
「何ですか?」
「なんだかんだ私の妻になってくれたのですから私を嫌いではないのでしょう?」

瞬間、月英の耳まで真っ赤に染め上がる。
月英は、思わずその場から早足で逃げる。
背後から孔明の忍び笑いが聞こえてきたが、今は気にしないことにして、

「い、いつか・・・」

孔明を負かしてやる、と内心意気込む。
まずは、均から聞いている孔明の苦手なものだけの朝食を用意してやると、小さな復讐を企てる。



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