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濃藍の空から今にも白いものが舞ってきそうだ。
月英は、雪が降る前に孔明が帰ってこれればいいのだけど、と窓越しに空を見上げる。
朝から孔明は友人宅へ出かけていた。
それを見送ってしばらくして、外に出ると風がとても冷たくて驚いた。
今日は底冷えする。月英は、両手をこすり合わせる。寒い。
せめて――。
あんな人でもいれば行火かわりにはなるのに、月英は唇を尖らせる。
いつの間にか――。
孔明の体温が自分になじんでしまっていることに月英は気付いていた。
そして、それを求めてしまうにも自分にも。
寒い。月英は口に出して呟く。寒い、寒い、寒い。寒いのは嫌いだ。
唇を尖らせながら、そう言うと均が声をあげて笑った。
「何度言って温かくなりませんよ」
「それはそうですけど寒いんですもの」
「もっと火をおこしますから我慢してください」
均は、義姉の様子が面白いのか、まだ笑っている。
月英は、均がおこしてくれる火を眺めながら、寒い、と口には出さず口腔で呟く。
この寒さはきっと――。
そう思いながら月英は外を見ると、ひらひらと舞うしろいものを見つけた。
あっ、と月英が呟いたので均もつられて外を見ると、「降ってきましたね」と言う。
「初雪・・・」
「あぁ、そうか。今年は寒いけどまだでしたね」
均の言葉に月英は頷く。
「積もるかしら?大丈夫かしら?」
月英の言葉に均は、立ち上がり外に出たかと思うと、
「あぁ、これは積もる雪みたいですよ。兄上も多分すぐに帰ってきますよ」
「そんなことは聞いてません」
「それを気にしていたのでは?」
違います、と月英は唇を尖らせる。あはは、と均はそんな義姉を笑いながら部屋に戻ってきた。
笑われて月英が、こういうところが孔明に似ている、と思ったその時――。
「義姉上はいいですよ。僕が行ってきます」
均はにこりとそう言うと行ってしまった。誰かが訪ねてきた気配がしたのだ。
月英は、初雪とともに現れたその気配に、ぎゅっと自らを抱きしめて、寒いと再び呟きを落とす。
均がおこしてくれた火のおかげでだいぶ温かくなったけれど、まだ寒い。
なかなか戻ってこない均を不審に思い立ち上がろうとした時、均が戻ってきた。
手には書状を手にしながら――。
「それは・・・」
「兄上にと、預かりました」
相手は聞かずとも月英には分かった。
「また来るとおっしゃってました」
「そうですか・・・。その時は・・・きっと・・・」
すっ・・・と月英は浮いたままだった腰を上げ、小走りで均が止めるのも聞かずに外に出る。
もう外には人の気配はない。
うっすらと道につもった雪に、馬の蹄の残っているだけ。
その足跡も次から次へと降ってくる雪に消えていこうとしている。
それを辿りながら月英は歩いた。
何か羽織ってくれば良かった、冷静にそう思いながら踵を返そうとした時、前方から、
「月英?!」
と声をかけられた。孔明だ。驚いた様子で孔明が駆け寄ってくる。
「――・・・どうしたんです?」
「いえ、別に・・・。それよりお帰りが早いですね」
「ええ。途中で雪が降ってきましたの足止めをくらうのは勘弁ですから帰ってきました」
「途中誰にも会いませんでした?」
「ええ、誰か来た・・・のですか?」
月英は軽く頷く。それに孔明は誰が、とは聞かなかった。
ただ月英の肩を抱いて、帰りましょう、と優しく言う。しばらく無言で歩を進めていた月英だったが、
「寒いです」
と言う。あなたは寒がりだから、孔明はそう言うと月英の手を掴むと、指と指を絡めてくる。
すると、指先からじんと何か貫くものが全身に走る。
「孔明さま」
「何ですか?」
貴方がいないと私は寒いんです、月英はらしくないと思いつつ、そう言う。
月英の言葉に孔明は驚いた様子だった。
絡めあった指をすっと離すと孔明は月英の両手を掌で覆い、
「どうしたのですか?」
「寒いから・・・」
「私は、ずっと貴方の傍にいますよ」
孔明の言葉に、月英は交差していた視線をそっと反らして、
「うそつき」
そう頬に笑みを浮かべる。その月英の頬を孔明は、指で撫でる。
その手に自分のそれを重ねて月英は、寒いと再び呟きを落とす。
寒い。寒い。寒い。貴方がいないと寒い。
ずっと傍にいてくれると言った孔明の言葉は本心だろう――今は。
人の心は変わるものだ。それは自分も――・・・。
月英は孔明に、そっと微笑んでみせる。
いつの間にか自分が孔明を心から愛するようになっていたように、人の心は変わるものだ。
孔明さま、寒いです。
再びそう言う月英を孔明は、ぎゅっと抱き寄せた。
寒い。寒い。寒い。貴方がいないと寒い。
月英は、雪が降る前に孔明が帰ってこれればいいのだけど、と窓越しに空を見上げる。
朝から孔明は友人宅へ出かけていた。
それを見送ってしばらくして、外に出ると風がとても冷たくて驚いた。
今日は底冷えする。月英は、両手をこすり合わせる。寒い。
せめて――。
あんな人でもいれば行火かわりにはなるのに、月英は唇を尖らせる。
いつの間にか――。
孔明の体温が自分になじんでしまっていることに月英は気付いていた。
そして、それを求めてしまうにも自分にも。
寒い。月英は口に出して呟く。寒い、寒い、寒い。寒いのは嫌いだ。
唇を尖らせながら、そう言うと均が声をあげて笑った。
「何度言って温かくなりませんよ」
「それはそうですけど寒いんですもの」
「もっと火をおこしますから我慢してください」
均は、義姉の様子が面白いのか、まだ笑っている。
月英は、均がおこしてくれる火を眺めながら、寒い、と口には出さず口腔で呟く。
この寒さはきっと――。
そう思いながら月英は外を見ると、ひらひらと舞うしろいものを見つけた。
あっ、と月英が呟いたので均もつられて外を見ると、「降ってきましたね」と言う。
「初雪・・・」
「あぁ、そうか。今年は寒いけどまだでしたね」
均の言葉に月英は頷く。
「積もるかしら?大丈夫かしら?」
月英の言葉に均は、立ち上がり外に出たかと思うと、
「あぁ、これは積もる雪みたいですよ。兄上も多分すぐに帰ってきますよ」
「そんなことは聞いてません」
「それを気にしていたのでは?」
違います、と月英は唇を尖らせる。あはは、と均はそんな義姉を笑いながら部屋に戻ってきた。
笑われて月英が、こういうところが孔明に似ている、と思ったその時――。
「義姉上はいいですよ。僕が行ってきます」
均はにこりとそう言うと行ってしまった。誰かが訪ねてきた気配がしたのだ。
月英は、初雪とともに現れたその気配に、ぎゅっと自らを抱きしめて、寒いと再び呟きを落とす。
均がおこしてくれた火のおかげでだいぶ温かくなったけれど、まだ寒い。
なかなか戻ってこない均を不審に思い立ち上がろうとした時、均が戻ってきた。
手には書状を手にしながら――。
「それは・・・」
「兄上にと、預かりました」
相手は聞かずとも月英には分かった。
「また来るとおっしゃってました」
「そうですか・・・。その時は・・・きっと・・・」
すっ・・・と月英は浮いたままだった腰を上げ、小走りで均が止めるのも聞かずに外に出る。
もう外には人の気配はない。
うっすらと道につもった雪に、馬の蹄の残っているだけ。
その足跡も次から次へと降ってくる雪に消えていこうとしている。
それを辿りながら月英は歩いた。
何か羽織ってくれば良かった、冷静にそう思いながら踵を返そうとした時、前方から、
「月英?!」
と声をかけられた。孔明だ。驚いた様子で孔明が駆け寄ってくる。
「――・・・どうしたんです?」
「いえ、別に・・・。それよりお帰りが早いですね」
「ええ。途中で雪が降ってきましたの足止めをくらうのは勘弁ですから帰ってきました」
「途中誰にも会いませんでした?」
「ええ、誰か来た・・・のですか?」
月英は軽く頷く。それに孔明は誰が、とは聞かなかった。
ただ月英の肩を抱いて、帰りましょう、と優しく言う。しばらく無言で歩を進めていた月英だったが、
「寒いです」
と言う。あなたは寒がりだから、孔明はそう言うと月英の手を掴むと、指と指を絡めてくる。
すると、指先からじんと何か貫くものが全身に走る。
「孔明さま」
「何ですか?」
貴方がいないと私は寒いんです、月英はらしくないと思いつつ、そう言う。
月英の言葉に孔明は驚いた様子だった。
絡めあった指をすっと離すと孔明は月英の両手を掌で覆い、
「どうしたのですか?」
「寒いから・・・」
「私は、ずっと貴方の傍にいますよ」
孔明の言葉に、月英は交差していた視線をそっと反らして、
「うそつき」
そう頬に笑みを浮かべる。その月英の頬を孔明は、指で撫でる。
その手に自分のそれを重ねて月英は、寒いと再び呟きを落とす。
寒い。寒い。寒い。貴方がいないと寒い。
ずっと傍にいてくれると言った孔明の言葉は本心だろう――今は。
人の心は変わるものだ。それは自分も――・・・。
月英は孔明に、そっと微笑んでみせる。
いつの間にか自分が孔明を心から愛するようになっていたように、人の心は変わるものだ。
孔明さま、寒いです。
再びそう言う月英を孔明は、ぎゅっと抱き寄せた。
寒い。寒い。寒い。貴方がいないと寒い。
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